2018-09-11

投資を始めて間もない時や、ある程度まとまった臨時収入が入り投資のタイミングを考えている時など

「ドルコスト平均法で定期的に積み立てていくべきか?」それとも
「一括投資で投資予算の全部を一回で購入していくべきか?」

迷うことはないでしょうか。

当記事は、こういった疑問に答えます。

ドルコスト平均法と一括投資の選択方法のポイント

まずはポイントの整理です。

・ポイント①:理論的に「ドルコスト平均法」が有利である根拠はない
・ポイント②:心理面を考慮してドルコスト平均法を選択するのは「アリ」
・ポイント③:日本・米国・欧州の株式市場を分析すると米国市場では特に「一括投資」の優位性が高い
・ポイント④:「こんな時に投資を始めて良いのか」と感じる局面こそ「一括投資」の優位性が高い


順番に解説していきます。

(この記事の前提)
この記事では、投資家はマーケットのタイミングを上手く予想して、市場平均以上の収益を上げることができないという前提をおきます。そうでないと、ベストなタイミングで「一括投資」すれば良いという結論になってしまい、話が終わってしまうため。また、投資開始時点において、定期的な収入以外の投資に向けることが可能な現金を一定程度保有していることとします。

ポイント①:理論的に「ドルコスト平均法」が有利である根拠はない

よく言われることですが、「ドルコスト平均法」が「一括投資」に比べて有利となる理論的な根拠はありません。

ドルコスト平均法
定期的に、一定金額で、1つの投資対象を買い付ける積立方法。
例えば、毎月10万円ずつインデックスファンドを積み立てる、というような積立方法。

(ドルコスト平均法 vs 一括投資)
運用する期間が総じて下落局面であれば、当たり前ですが「ドルコスト平均法」が有利になります。また、期間中の平均的な投資額が少ない「ドルコスト平均法」のリスク量は小さくなります。逆に、運用する期間が総じて上昇局面であれば、「一括投資」の方が有利になります。

「ドルコスト平均法」は、「一括投資」に比べて、リスクにさらされる「時間」が短くなります。公平に比較するならば、同じ時点での『投資額に対する「リターン÷リスク(リスク調整後リターン)」』で比較する必要があり、これは、投資対象が同じなので、当然同じになります。

つまり、全く同じ条件であれば「ドルコスト平均法」が有利である証拠はありません。

(期待リターンがプラスである前提では)
投資をするということは、その投資対象の値上がりを期待していることが前提になるため、投資資金があれば「一括投資」をした方が(先にリスクをとった分)良いとも言えます。

逆に、「ドルコスト平均法」は、投資タイミングの分散により「機会損失」が生じてしまうため「一括投資」に比べて不利になる可能性があるとも言えるでしょう。

というところまでが、理論上のお話です。

ポイント②:心理面を考慮してドルコスト平均法を選択するのは「アリ」

とは言っても、では今日ここで多額の「一括投資」を行って、翌日にリーマンショック級のマーケットの暴落があったら誰だって嫌ですよね。

(損失回避バイアス)
よく投資のリスクは価格のブレ(例えば、年率標準偏差)だと言われます。

しかし、私は、投資家心理に基づけば、投資家が本心で感じている「リスク」は、「価格のブレ」だけでなく「損失をできるだけ回避したいという心理(損失回避バイアス)」も多分に含まれるものと考えています。

一般に、金銭を取り扱う際に、誰もが損したくないと感じる心理は、行動経済学の「プロスペクト理論」で説明できます。

プロスペクト理論(Prospect theory)
人は利益を得る場面では「確実に手に入れる」ことを優先し、反対に、損失を被る場面では「最大限に回避すること」を優先する行動心理。
1979年に、心理学者であり行動経済学者のダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)と心理学者のエイモス・トベルスキー(Amos Tversky)によって提唱される。
2002年に、ダニエル・カーネマンはプロスペクト理論でノーベル経済学賞を受賞(エイモス・トベルスキーは1996年6月に他界している)

(投資を継続できる投資家自身の感覚が大切)
事実、過去の株式市場の実績でも、シミュレーションでも、「ドルコスト平均法」は「一括投資」に比べて、運用期間中に発生する「最大損失額」は小さくなる傾向にあります。
(また、同時に中期的な損益の変動も抑えることができる傾向もあります

この「最大損失額」から見た「リスク低減効果」は、一括投資と比べたときの機会損失に伴うリターン低下と、おおよそトレードオフ関係にあります。しかし、投資家心理において大損する可能性を避けたいという心理は当然と言えるでしょう。投資家自身がリスクに「価格のブレ」だけでなく「損失回避」も考慮するのであれば「ドルコスト平均法」を選択するのも(ある意味)合理的だと思います。

さらに「ドルコスト平均法」では、購入をルール化することができます。結果、マーケットの短期的な上げ下げに対して、気を揉む必要はありません。もちろん、マーケットの動きに惑わされて、自分の意志に反した投資判断を下すことも少ないでしょう。

SNSなどでは「ドルコスト平均法」は「気休め(程度)だ」と表現されているのを見かけますが、「気休め」は、『「一時的」「その場限り」の安心』という「短期的」で「やや否定的」な意味が含まれる単語なので、私は若干違和感を覚えます。

主に積立当初における「損益変動の抑制」「運用期間中の多額の損失回避」の意味合いを認識したうえで「ドルコスト平均法」を選択するのであれば、当然あり得る判断の1つだと思います。

兎にも角にも、資産運用は、自分の心理的な傾向をも理解して投資計画を継続していくことが大切です。確かに、理屈の上では「一括投資」が勧められることもありますが、自分で考えて納得感がある方を選択するべきでしょう。

納得できない理屈上の正解を、無理に選択する必要はないのです。

ポイント③:日本・米国・欧州の株式市場を分析すると米国市場では特に「一括投資」の優位性が高い

さて、国・地域毎に「ドルコスト平均法」と「一括投資」の優位性に違いは出るのでしょうか?

日本・米国・欧州の株式市場について、実際の過去のマーケットの動きから市場の特徴を再現したシミュレーションを実施し「ドルコスト平均法」「一括投資」のどちらに優位性があるのかを独自に検証しています。

(シミュレーション条件)
・日本、米国、欧州の株式市場において、「期待リターン」「ショック時の価格ジャンプ」「時系列リターンの自己相関」を有効性が高いと判断した組合せを200パターン設定。
・各パターンに対して100年間の時系列リターン(月次)を5,000経路設定。
・積立期間1年、3年、5年、および「一括投資」を比較。投資期間10年、20年、30年のそれぞれ全ての組み合わせをシミュレーション。
・長期的かつ相対的な傾向を分析。
・比較する基準は、リスク調整後リターン
(「ドルコスト平均法」での平均投資残高の調整はしない。つまり同投資法では投資対象の「期待リターン>0」時の機会損失が発生する前提)

結論から言えば特に、米国株式市場において「一括投資」の優位性が強くあらわれました。

国別には、

・ドルコスト平均法の有効性が高かった国の順に「日本>欧州>米国」
・一括投資の有効性が高かった国の順に「米国>欧州>日本」


となります。

最近では米国株のみに集中投資されている投資家の方が多いので、特に慎重に分析をしたつもりですが、お気になさる方はご自身で算出・検討してくださいね。

米国の株式市場は、過去に右肩上がりに推移してきたから、この結果は当たり前だと思われる方も多いのではないでしょうか。しかし、分析してみると、米国市場は、他の市場よりもショック後の回復力が強い傾向にあったことが主因だと思われます。

株式市場の「平均回帰性」は各国で見られる現象ですが、米国ほどその傾向が特徴的に現れる国はありません。それが、マーケットのショック後からの回復という形で株価チャートにも表れているので直観的にも分かりやすいと思います。

ちなみに、米国株はファンダメンタルが回復していたからこのような結果になったと感じられるかもしれませんが、他国との比較、時系列の変化を基準に因果関係を分析したところ、ほぼファンダメンタル回復による要因ではないと私は認識しています。

この辺の詳細の解説や、この分析の今後の再現性などに関しては、ここでの議論は省略します。もちろん将来のことは誰にも分からないことでしょう。

ただ、米国株式市場に限っては、今後も大きな構造変化などが起こらないという前提で、「ドルコスト平均法」よりも「一括投資」の方が確率的には有利であることは間違いない、と私は考えます。

ポイント④:「こんな時に投資を始めて良いのか」と感じる局面こそ「一括投資」の優位性が高い

(マーケットの方向性を予測することは難しいが、)
私も長く資産運用業界に身を置いていますが、マーケットの動きを予測することは難しいと感じます。これはよく言われる通り誰でも聞いたことがある認識ではないでしょうか。

しかし、マーケットの方向性の予測ではなく、現時点のマーケットの価格水準が長期投資を前提に考えたときに、確率的に有利な水準であるかの評価は「ある程度」できるものと考えます。

あくまでも「暴落の時期を予測する」とか「マーケットの変動を上手く捉えて大儲けできる」といった話ではなく、長期的な視点での現時点のマーケットの水準感の捉え方です。

具体的には、投資家は「現時点が、株式市場の暴落のさなかから暫くの時期(ほぼ限定的)であるのか」については、大まかも把握ができるものと考えます。仮に、その局面で投資するのであれば「ドルコスト平均法」より「一括投資」の方が確率的には有利です。

その時期に「一括投資」をすれば必ず成功すると言っているわけではありません。
マーケットに大きな構造変化が起きないことが前提となりますが、その他の時期での「一括投資」に比べて、長期的なパフォーマンスが良好となる「確率が高い」というものです。

ここで、そのような時期に『リスク資産を「買いに行けるものなのか」』という議論が起こりそうですね。

これは、どちらかと言えば、将来の「予測」ではなく、市場の現状の「認識」の問題と言えるでしょう。市場の変動性が高い時期でリスク資産を購入し難いという「投資家心理」や「追加資金の欠如」といった要因を除けば「ある程度」は可能な投資行動だと、私は考えています。

「予測」と「現状の認識」を混同してしまう投資家がよくいます。説明の補強に、たまには引用を使わせていただきます。

「現状の認識」についてはハワード・マークス(Howard Marks、オークツリー・キャピタル・マネジメント会長兼共同創業者)の著書『投資で一番大切な20の教え』での言葉も有益です。

『投資で一番大切な20の教え』 15章 今どこにいるのかを感じとる
この先どうなるのかは知る由もないかもしれないが、今どこにいるのかについてはよく知っておくべきだ。(中略)
今、サイクルのどの位置に立っているのかがつきとめられれば、次に何が起きるのか正確に分かると言っているのではない。しかし、現状を理解すれば、将来の出来事とそれについて何をすべきかという点に関する貴重な洞察が得られる。我々にできるのは、せいぜいその程度のことだ。

(テキストマイニングによるネガティブニュースウォッチ)
少し余談になりますが、5年程前に私が実施した、主要先進国の株式市場の市況ニュースに対する「テキストマインニング」の話をします。

テキストマイニング(text mining)
文字列を対象としたデータマイニング。
ニュースや書類など文章から単語や文章で区切りデータ化し、それらの出現の頻度、傾向、他の指標との関連性などを解析するテキストデータの分析方法。

簡単に説明すると、約10年間、特定のソースからの市況ニュースを自動的で取り込みテキスト化し、そのデータを元に「現在のマーケットがどのようにニュースで表現がされているのか」と「その表現とマーケットの関連性」を調べる分析です。

その際、様々な単語や文章の区切りにて分析をしましたが、特に長期投資において有用であったものは、市場の暴落から暫くの間に増加する下記のキーワードです。

①「(期間)以来の~最安値を更新」
②「再び(or さらに)下落する(を予想する文章)」
③「に端を発した混乱(ボラティリティの上昇)or金融システムに波及」


これらの3パターンのネガティブなニュースが増加(ニュース全体の3割以上(通常1割以下))している投資環境においては、長期的にはマーケットが割安水準であったことが明確に結論付けられました。もちろん日々流れるニュースを読んでいくだけでこれらの情報を、投資家が感覚的に把握できるかはもう1段階の議論があるところだと思います。

また、当時の別のアンケート調査においても、市場の混乱に関するニュースが流れているとき、投資家は、長期的には期待リターンが高まるであろうという水準(いわゆる割安)であることを6割以上が認識できていたという結果もありました。

繰り返しになりますが、将来の「予測」ではなく、市場の現状の「認識」であり、それも暴落後の暫くの間に限っては「ある程度」認識できるものと、私は考えます。

人間心理として、特にバブルの崩壊や暴落の時期を何度か経験している投資家は、短期的な売買でタイミングを図ることは難しいものの、マーケットの現状を把握して「今、リスク資産を買い増せば、長期的にパフォーマンスが向上するのではないか」という判断が可能ではないかという感覚を覚えるものです。

上述のテキストマイニングには、そういった感覚を分析する意図もありました。マクロ環境を分析しない投資家であっても、市況ニュースだけでどの程度マーケットの現状を把握が可能なのかを考察したというわけです。

さて、長年マーケットと向き合っている投資家の皆さまの感覚はいかがでしょうか。もちろん、最終的なご判断は投資家の皆さまにお任せしますね。

(機関投資家には取りにくいポジション)
ところで、この説で長期的なパフォーマンス向上の機会が窺えるのであれば、機関投資家が先に輝かしいリターンを得られているはずだと思った方もいるでしょう。

しかし、残念ながら、機関投資家には使えない投資アイディアだと思います。というのは、マーケットの変動性が高い局面でリスク量を増加させることができない制度設計の機関投資家は多く存在します。また、長期的にどこかのタイミングでプラス寄与するだろう、といった漠然とした投資判断を採用することも機関投資家にはほぼできないからです。

(注意点など)
ここで話してきたことは、暴落時に落ちてきたナイフに拾うような行為にもなります。短期的にはさらに下落する可能性があるでしょう。それに、リーマンショック級の大暴落ともなれば、ご自身の定期的な収入にまで影響が及んでしまい資産運用どころではないかもしれません。

ただそれでも、、ただそれでも、、そういう時期こそ、後で振り返れば相対的に有利な投資タイミングであったということも事実です(少なくともこれまでは)。

また、投資家が「こんな時に投資を始めて良いものか」と嫌な感じを受けるときこそ、後になってみれば投資をスタートする良好なタイミングであることが多いと思います。そして、そのときは「ドルコスト平均法」よりも「一括投資」に優位性があるのもほぼ間違いない、と私は考えます。

まとめ

・「ドルコスト平均法」が「一括投資」に比べて有利となる理論的な根拠はない。投資をするということは、投資対象の値上がりを期待していることが前提なので、投資資金があれば「一括投資」をした方が(先にリスクをとった分)良い。

・投資家自身がリスクに「損失回避バイアス」も考慮したいのであれば「ドルコスト平均法」を選択も合理的。

・過去の米国株市場の時系列リターンを再現したシミュレーションでは米国株市場では「ドルコスト平均法」よりも「一括投資」の有効性が高い。

・投資家は、現時点が、株式市場の暴落のさなかから暫くの期間にあるかを、大まかには把握ができる。これは将来の「予測」ではなく、市場の現状の「認識」の問題。
投資家が「こんな時に投資を始めて良いものか」と嫌な感じを受けるときこそ、絶好の投資タイミングであることが多い。また、その時は「ドルコスト平均法」よりも「一括投資」に優位性がある。

~この記事の著者~

香川 功行

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