2018-09-14

VT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)の登場もあり、世界株式の時価総額加重インデックスに連動するファンドを保有している投資家の方も多いのではないでしょうか。

先日、SNSにて「世界株式の時価総額加重インデックスのパフォーマンスは、平凡(おそらく米国をはじめ各国の株式インデックスとの比較と推察します)なのに、リスクはあまり抑えられていない」「なんとなく違和感を覚える」という疑問(質問)をいただきました。

そこで当記事では、その疑問対して筆者なりの見解を述べながら「世界株式の時価総額加重インデックスの評価」をしていきたいと思います。

(注意)
当記事では、上記の「違和感」に対する解説をさせていただいている都合、結果として世界株式時価総額加重インデックスの「デメリット」ばかりを記載していますが、基本的に、VTをはじめとする世界株式時価総額加重インデックス連動商品は、極めて優秀な金融商品という認識です。もちろん、バンガード社が世界最高クラスの運用会社であることも疑いようがありません。念のため。

<筆者の情報>
香川功行
国内外の金融機関でファンドマネジャー、アナリストを経験後、金融商品の設計業務。その後海外投資法人を設立し、運用業務。インデックスファンドのファンドマネジャー、株式指数の開発・研究、小型株ファンドのファンドマネジャーなどがバックグラウンド。

世界株式の時価総額加重インデックス評価のポイント

まずはポイントの整理です。

・ポイント①:「VTの保有=経済全体の保有」のイメージは幻想
・ポイント②:インデックスは投資対象を拡大するほど恣意的な要素が増加する
・ポイント③:世界株式時価総額加重インデックスは歪んだ指数
・ポイント④:パフォーマンスにマイナス寄与する構造要因が多分に存在する


順番に説明していきます。

ポイント①:「VTの保有=経済全体の保有」のイメージは幻想

VT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)あるいはその類似金融商品を保有することで「経済全体を保有する」というイメージを持って投資をしていることはないでしょうか?

しかし、実際、投資信託やETFなどの金融商品を通じて、投資が可能となるのは、ほとんどが上場企業の株式となります(話を簡単にするために株式以外の投資対象は当記事では除外します)。あくまで、投資対象は大半が上場企業で、そのポジションは、世界経済の「一部」であって「全体」ではありません。

よく「資本主義経済は価値増殖のメカニズムを有しているから、それを信じ、経済全体を保有するつもりで世界各国の株式(や債券)に投資をしよう」という内容を、金融機関のマーケティング資料などから目にしないでしょうか。しかし、これは単なる耳あたりが良いセールストークにすぎない、というのが私の認識です。

当然、経済を支える主体は、上場企業以外にもありますよね。
非上場企業であれば、サントリー、YKK、ロッテなどでしょうか。株式会社でなくても、有限会社、合名会社、合資会社もあります。利潤追求の度合いは落ちますが、公的な法人も存在します。個人事業主、フリーランサーもそうです。
世界を見渡し、経済を支える主体を挙げていけばキリがなさそうです。

つまり、一般的な金融商品を通じての投資は、経済の「一部」に対してのものすぎません。経済全体を(例え近似的にであっても)保有するような「拡大解釈」されたイメージは、金融機関が植え付けた「幻想」とも言えるのではないでしょうか。

ポイント②:インデックスは投資対象を拡大するほど恣意的な要素が増加する

(インデックスは人間が作ったもの)
また「特定市場に投資をすることなく全世界の株式に幅広く投資をしよう。恣意的な要素をできるだけ排除して可能な限り投資対象を広げよう。」という意識で投資をしてはいないでしょうか?

しかし、所詮、インデックスも人間が作ったものです。インデックスの開発・研究の現場では、(当時の私もそうですが)生身の人間が考えて、様々な基準を(ある意味勝手に)指数に埋め込んでいます。

時価総額加重インデックスであれば、恣意的な要素は入らないと思われるかもしれません。では、
・「時価総額の基準とは何でしょうか?→ 国毎に平仄が異なり、評価のタイミングも厳密にはバラツキがあります」
・「構成銘柄数は?→ 市場全銘柄であっても対象市場は選ぶ必要があります」など、恣意的な要素が入る項目は、これも数えたらキリがありません。

(神様のみぞ知る「ゴッド・ポートフォリオ」)
ここで、仮に、神のみぞ知る恣意的な要素が一切入らない、そして世界中の経済主体をも投資対象にした「ゴッド・ポートフォリオ」(抽象概念)があるとします。

1つの概念としてCAPM理論の「マーケット・ポートフォリオ」が想像されるかもしれませんが「投資可能な証券という前提」が異なります。おなじみ、サルが選ぶと「モンキー・ポートフォリオ」、神様が選ぶと「ゴッド・ポートフォリオ」と、仮に設定しましょう。もっとも、神様は最強銘柄を予測できるはずだから、そんなポートフォリオ自体を組まないのかもしれませんが。

さて、恣意的な要素が一切入らない「ゴッド・ポートフォリオ」を知る神様から見た、人間社会「世界株式の時価総額加重インデックス」はどのようにみえるのでしょうか?

私は、以下のような「神様の声」が聞こえてくるのではないかと想像します。

神様の声(想像、例え話です)
・人間は、(多くの場合で)取引所でしか株式を購入できないものなのか‥‥
・グロバール社会にもかかわらず、国家という区分で取引所が法律というものに縛られているのか‥‥
・国毎に所在する取引所が恣意的に決定した上場基準を満たした株式しか買えないのか‥‥
・指数情報提供会社(指数ベンダー)の恣意的にインデックスの基準に身をゆだねるしかないのか‥‥
・インデックスファンドマネジャーの裁量による振り回されるていることに気が付かないのか‥‥

(少し例えが過ぎましたが)要は、かみ砕いて、「世界株式の時価総額加重インデックス」がどのような「フィルター(恣意的な要素)」を通されているものなのかを説明させていただいたわけです。

少し見方を変えてみます。

「世界株式の時価総額加重インデックス」をポートフォリオ、「ゴッド・ポートフォリオ」をベンチマークとして考えると、上記の「神様の声」は全てトラッキングエラーの要因とも言えます。

極端には、
神様の視点からは「世界株式の時価総額加重インデックス」は①指数ベンダー、②各国の取引所、③ファンドマネジャーなどのチームで受動的に運用される「アクティブファンド」であると捉えることができるのかもしれません。

正直、これは本当に極端すぎる「例え」ですが、受動的であってもインデックスには恣意的な要因が多分にあると説明するための表現とお考えください。

続けます。

ポイント③:世界株式の時価総額加重インデックスは歪んだ指数

実は、上記の「神様の声」これは全てを一種の「リスク」と捉えることもできます。

(マルチファクターモデルをはじめとする機関投資家のリスクモデル)
「え?リスクは価格のブレ(年率標準偏差)で表現されるのでは?」と思われるかもしれませんが、少し専門的なお話をすると、インデックスの特徴的なところは全部リスクだという捉え方もあります。

インデックス運用においては、トラッキングエラーが発生する要因をリスクと考えます。他の視点では、例えば、国(米国、日本、英国・・といった区分)、取引所(0,1のフラグ)などは単に「リスク」ではなく「ファクターリスク」というかたちでも分析されたりします。

機関投資家によるポートフォリオの管理手法にマルチファクターモデルというものもあります。聞いたことがあるかもしれません。古くにはファーマ-フレンチの3ファクターモデルが有名ですね。

実際には各社独自のファクター(運用会社であればBARRAなど)を使用しています。「規模」「割安度」「業種」など、用途によっても(もちろんモデルの精度の観点でも)ファクターの仕切りは様々あります。(これらの概念を基本から説明していたら時間もかかるので、リスク評価・考え方に関しては省略させていただきます)

ただし、リスクとして捉えられるからダメだと言っているわけではありません。1つのインデックスを構築すれば、必ずそれなりの特徴(ファクターリスク)がでます。その特徴(ファクターリスク)を抽出してリスク・リターン特性から様々な検討を行います。当然、パフォーマンスだけでなく、多面的な分析を行いそのファクターリスクが「悪さ」をしなければ問題ないと、私は考えます。

(世界株式の時価総額加重インデックスは「歪み」を可能な限りかみ砕く)
この「世界株式の時価総額加重インデックス」のファクターリスクを分析すると他のインデックスと比べて相対的に歪みが多いことは間違いない、と思います。

当記事で分析結果の数値を羅列しても、その前提から分析手法の説明に至るまでで膨大な分量となってしまうので、直観的なイメージで理解できるよう説明していきます。

<最初に、イメージ>

(1)世界各国の時価総額インデックスの開発は、世界中の粘土を使って、大きな綺麗な球体を作る作業だと考えます。

(2)しかし、各国の粘土は(各国で異なる上場基準などの要因で)柔らかかったり、硬かったり、重かったり、軽かったりと材質が均一ではないものだった。

(3)なんとか丸めてみたが、球体の形は歪(いびつ)になり、重さもバランスも悪いものが出来上がった。

(4)球体を真っすぐに転がすつもり(ファンドマネジャーによる指数連動作業)だったが、いざ転がしたら、何か思った方向に転がらない。

というようなイメージです。

幾つか例え話を考えたのですが、米国の某指数ベンダーの方々には、この「粘土」の例えが最も受けが良かったので採用しました。

<次に、イメージから具体例>
イメージをお話したところで、もう少し具体的な内容にブレイクダウンしていきます。

あくまでも一例ですが、規模の小さい新興国で上場基準を満たした上場企業が、仮に米国での上場を考えたらとても上場できる基準を満たさないこともありそうですよね(スタンダードな基準をどこに置くかはさておき、世界的には上場するに値しない企業も、取引所の基準次第では購入できる場合もある)

国を跨ぐほどに基準が異なる要素は数多く存在ます。国によっては規制産業もあります。制度設計により上場しやすい規模・業種も様々です。これらの基準が異なる要素を重ね合わせ過ぎて「歪み」が生じている指数の1つは「世界株式時価総額加重インデックス」だと、私は認識しています。

これらの「歪み」のせいで、パフォーマンス(リスク調整後リターン)に悪影響がでているのかと聞かれれば、私は「でている」と答えます。

上記の例で「上場企業が、云々・・・」と説明していますが、実際に具体的にこのような銘柄がマイナスに寄与すると説明しているわけではありません。「歪み」から抽出したファクターリスクが、長期的にそして安定的にインデックスのパフォーマンスにマイナス寄与する傾向があるという、私の評価です。

ポイント④:パフォーマンスにマイナス寄与する構造要因が多分に存在する

(これまでは株式指数の開発・研究者の目線でした)
当たり前ですが、将来のことは誰にも予想できません。
しかし、投資対象を過度に拡大しすぎることによるパフォーマンスへの悪影響は、比較的頑健性がある事象で、少なくとも過去における「米株>世界株」のパフォーマンスの差異よりは再現性が高いものと、私は判断しています。

ここまでは「指数開発者」の目線から、世界株式の時価総額加重インデックスを評価してきました。いわばインデックス自体の構造要因からのアプローチでした。

(ここからは、「インデックスファンドマネジャー」の目線)
そのうえで、今度は「ファンドマネジャー」の目線で考えます。こちらは簡単です。

インデックスファンド(ETF)などの金融商品を通じて世界株式指数への連動性を維持しようとすると発生するコストが、特に過度に投資国(投資銘柄)の分散を図ることにより、金融商品内で増加するという確実な要因です。

記事にできる範囲で比較的理解しやすい「コスト要因」を「3つ」あげます。

保管費用(カストディアンフィー)
他の記事でもご説明していますが、保管費用はファンドの信託報酬とは別に、国毎の資産残高等に応じて発生します。相対的に新興国ほど高い料率となる傾向にあります。

売買コスト・スプレッドコスト
過度に分散を図る運用を想定すると、ファンドの資金増減に伴う売買コストはインデックス構成ウエイトの低い銘柄(さらに新興国である)ほど増加します。また、売買の少ないマーケットで機械的に売買してしまうようなことがあれば、当然、スプレッドコストも増大し、ファンドの基準価額の下落要因になるでしょう。

税率コスト(税制リスク)
上記と同様で、新興国ほど税率が高い傾向にあります。また、過去の某国のように、運用会社の税制の判断次第で、将来発生する可能性がある税額を引当金として費用計上しているファンドもあります(税制リスク)。

金融商品内で発生するコストは皆さまかなり敏感なので、ご認識いただけると思います。

最後に

繰り返しになりますが、筆者は、VTをはじめ世界株式時価総額加重インデックス連動商品は、極めて優秀な金融商品という認識を持っています。

上記で長々と説明させていただいた「世界株式時価総額加重インデックスの評価」は、あくまでも、筆者個人の認識です。
当然、受け取り方は投資家の皆さまにお任せします。

当記事は、
最初に挙げた質問の「違和感」に対する筆者なりの見解、と
筆者自身が世界株式時価総額加重インデックス連動商品を検討しない理由
(「一般論」ではなく「筆者個人の、投資をしない理由が聞きたい!」という強い要望があったため)
を可能な限りかみ砕いて説明したものです。

当記事の内容を簡単にまとめると、
インデックスにおいて投資対象国や銘柄数を拡大しすぎた場合、
・インデックスの構造面では、恒常的にパフォーマンスにマイナス寄与するファクターリスクにさらされ、
・金融商品(インデックスファンド)での運用面では、内部コストが増大しやすくなり、
これら影響が、分散効果に伴うリスクの低減よりも、大きくなることが想定される
というものです。

説明が足りないところも多々ありますが、今回は、一旦、ここまでとさせていただきます。

~この記事の著者~

香川 功行

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