2018-09-22

前回記事
世界株式時価総額加重インデックスへの違和感【VTの投資判断】
に対して、様々な質問等をいただきました。

当記事では、この質問に対して筆者なりの回答をすると供に、前回記事で記載できなかった情報を補足させていただきます。

<筆者の情報>
香川功行
国内外の金融機関でファンドマネジャー、アナリストを経験後、金融商品の設計業務。その後海外投資法人を設立し、運用業務。インデックスファンドのファンドマネジャー、株式指数の開発・研究、小型株ファンドのファンドマネジャーなどがバックグラウンド。

ご質問の内容と回答のまとめ

まずは、ご質問の内容とその回答のまとめです。

・質問①:国際分散投資を実践しているが、投資方針を変更する必要があると思うか?
基本的に変更する必要はない。自身が納得感のあるやり方で最善と考える。

・質問②:インデックス投資で経済の一部であっても多くを保有し、資本主義経済の成長を享受するという考え方はどう思うか?
GDP成長率と株価の相関については様々な見解があるが、個人的には相関は低いという結論を支持している。

・質問③:前回記事の過剰な分散化から生じるコスト増は軽微ではないでしょうか?
コストは軽微な水準。ただし、基本的には確実なコスト要因は回避していく方が無難。

・質問④:真の世界株式インデックスはどのようなものだと考えるのか?
恣意的な要素が極力入らない、そして、金融商品内で発生するコストを最小化できるように設計された世界経済の「縮図」となりうるインデックス。
(現在において、筆者の考えは他社の著作物)

順番に説明していきます。

質問①:国際分散投資を実践しているが、投資方針を変更する必要があると思うか?

(投資方針を変更する必要はない)
前回記事は、あくまでも1つの「見方」として、ご参考程度にお考えください。前回記事は、ご質問があった、私自身が「個人的に」世界株式時価総額加重インデックスに投資をしない理由について、回答させていただいた次第です。

投資は、突き詰めていけば幾らでも「複雑」に考えていくこと可能です。しかし、一般的には、投資家自身で確実に理解できる情報を基に「シンプル」な選択をしていく方が良いでしょう。そして「シンプル」な選択を継続していくことが意外に「難しく」そして非常に「重要」です。

前回記事の内容は質問に対しての回答に留めています。実際、その内容を突き詰めていけばいくほど「複雑」な投資行動が必要となることがあります。

資産運用を継続していくためには、投資家自身が納得感のあるやり方を採用していくことが最善でしょう。現時点でご自身が理解し実践している「国際分散投資」の方針を変更する必要は全くないと考えます。

特にインデックス投資の実践を前提とした場合、どれほど深く考えたところで、投資行動と結果(リスク調整後リターン)は、他の投資法と比較して、それほど大きく変わることがありません。

得てして、投資家は「最適解」を見つけることに奔走しがちですが、個人的には、肩肘張らずに「大よそ合っているだろうと思うくらいの選択」が現実的で良いと思います。

(新しい投資情報との付き合い方)
資産運用を続けていれば、新しい投資情報や今まで知らなかった知識を得る機会が訪れると思います。「投資方針がブレてしまい、嫌になってしまう!」という方もいるかもしれません。

現在、筆者は、株式・指数先物のアルゴリズム取引を行うヘッジファンド運用に携わっています。会社にも依りますが、これらの投資主体は、大学の最新の研究や高度な解析技術を使って新しいアイディアを限界まで追求していく必要があります。毎日のように、新しい研究、その反論、そのまた反論と・・実証結果、分析手法等の情報が嵐のように押し寄せ、特に過去の投資判断に否定的な情報には(慣れているとはいえ、正直)ウンザリすることすらあります。

しかし、このような環境にあっても、機関投資家は短期的に運用方針を大きく変更することはありません。運用には、時系列的な一貫性を必要とするためです。追加的な情報は把握しながら、一定程度の情報の蓄積を待って、その内容を精査してから運用方針に反映させるスタンスとなります。

これは個人投資家においても当てはまるものと考えます。
自身の投資方針に影響しえる情報も、日々流れるマーケットのニュースのように割り切って捉えてみてはいかがでしょうか。

ただ、長期投資であっても、投資家がこれらの情報から遠ざかることは、あまりお勧めしません。マーケットの核となる部分や資産運用の考え方は、短期で劇的に変わることはまずありえませんが、微小な変化は絶えず生じています。情報に振り回されない耐性を作りつつ、知識を蓄積し続けるのが良いスタンスだと考えます。

そして仮に投資方針を検討するにしても、ある程度の情報の蓄積を待ち、理解が十分に出来てからで良いでしょう。

質問②:インデックス投資で経済の一部であっても多くを保有し、資本主義経済の成長を享受するという考え方はどう思うか?

(質問に答える前に)
前回記事ではインデックス投資において「経済全体を保有するイメージ」「資本主義経済の成長…云々‥」などのセールストークは、少なくとも運用実務者の認識とは異なるということを説明しました。

得てして、群衆は「複雑で理解しにくい真実よりも、耳あたりの良いセールストークの方を好む」傾向にあります。

さらに、実際のところ、インデックス投資を実践していく前提であれば、仮に理解に間違いがあったとしても、投資行動にそれほど相違が出るものではありません。どちらかと言えば「理解の正確さ」よりも「投資の継続性」の方がより重要です。

「経済全体への保有をイメージして、世界株式インデックスなどの幅広な投資対象に投資をする。資本主義経済の成長メカニズムからの恩恵を享受する。」という理解で、投資家自身が納得し、資産運用を継続していけるのであれば、こと「インデックス投資」に関しては大きな問題はないと思います。

先日、米国の第一人者の研究者兼実務家の方(本人の希望により今回は匿名)がある勉強会で、以下のような発言をしていました。

インデックス投資は、運用業界で最も専門家以外のアマチュア(一般投資家と訳すべきか少し迷うところです)が評論をしたがる唯一の領域だ。
どのような理解をしても、投資行動にはほとんど影響を及ぼさない。また、インデックス投資家は時として壮大なストーリーを創造し、それを信じて投資をする。そんな投資家にとって、インデックス投資の真実(詳細なファンド内部のデータ等)は「必要悪」の反対、あえて言葉を見つけるとすれば「不要善」にしかならない。

かみ砕くと「インデックス投資について、どのような理解をしてもあまり変わらないのだから、アマチュアの理解に任せておけばいい。事実を語っても誰も幸せにはならない」という如何にも第一人者らしい発言でした。

確かに一理あるのですが、私はこの考えには賛同していません。
「知らぬが仏」ということもありますが「知ったうえで選択したい」という投資家も多いはずです。少なくとも私ならそう考えます。

確かにインデックス投資に限定すれば、どのような理解であっても、投資行動と結果(リスク調整後リターン)は、他の投資手法と比べて、大きな差異は生じないでしょう。しかし、情報を望む投資家がいれば、その事実は伝えた方が良いと考えます。それは、「些細な認識の間違いを積み上げてしまうと、いずれ大きな失敗を生み出す可能性がある」と私は考えているからです。

ただし、繰り返しにはなりますが、インデックス投資では、どれだけ精緻な理解ができたところで、投資行動にそれほど相違が出るものではありません。あまりガチガチに力んで「最適解」を追求していくようなスタンスは不要でしょう。あまり肩肘張らずに「大よそ合っているだろうと思うくらいの選択」が現実的で良いと思います。

(質問への回答)
さて前置きが長くなりましたが本題に戻ります。

インデックスにおいて過剰に投資対象を増加させた際に生じるデメリットは、前回記事にて示した通りです。経済全体への投資というのは概念としてはありえる考え方ですが、上場企業に限定し、その時価総額加重でインデックスを構築しても、経済の「一部」であって「全部」ではありません。さらにその「一部」は、バランスが崩れた経済の一部とも言えます。

「資本主義経済」というキーワードも大袈裟すぎるでしょう。まじめに投資との関連性を考察するのであれば「何を持って資本主義と言えるのか」「国によって異なる資本主義の浸透度」なども精査していく必要があります(問題を投げかけているだけではなく、データをもとに考察していますが、記事の意図とは外れるので当記事では省略します)。壮大なストーリーで大変興味深いのですが「資本主義経済・‥云々」は、極めて表面的で抽象的な文句という印象です。

また、経済成長を享受するとはよく使われる文句です。
例えば「GDP成長率と株価の相関性」については様々見解がありますが、その相関は極めて低いという研究結果が支持されているのではないでしょうか。私自身もそのように考えています。インデックス運用で有名なバンガード社も同様の立場なので賛同しやすいでしょう。

単純に「経済成長=株価上昇」とはならない例を挙げると、仮に投資家全員の保有銘柄に対する利益成長の見通しが全く同じであるとするならば、いくら利益が成長したとしても、現在の株価は投資家の見通しを織り込み済みのため、株価上昇はありえないでしょう。(もちろん投資家全員の見通しが全く同じことなどありえませんし、投資家全員の見通しを実際に認識できるわけではありません。理論上の仮定の話です)

あくまでも、株価上昇は「投資家の見通しの平均以上のサプライズ」や「将来への不確実性に対するプレミアム」によるものというのが本質的なところだと考えます。

質問③:前回記事の過剰な分散化から生じるコスト増は軽微ではないでしょうか?

(コストの水準は軽微)
相対的にインデックスの構成比率が低い銘柄を中心に発生するコストなので、極めて軽微な水準であることは間違いありません。

ただし、軽微な水準であっても、金融商品内で発生するコストは確実なパフォーマンスのマイナス要因です。コスト増を発生しやすい市場や銘柄群に対する「期待リターン」の想定にも依るところですが、基本的には確実なコスト要因は回避していく方が無難と、私は考えます。

金融商品内部のコスト問題に関しては、個別の要因もあるので、金融商品に関する法的な提出書類などから推計していくのが一般的です。残念ながら、この辺のところは運用会社に問い合わせても、運用者以外の社員しか対応できないので良くても「ほとんどコストは発生しないですよ!」と緩い回答しかしてもらえないとはずです(経験則)。

(完全法を使用することによるリバランスコストにも注意)
あわせて非常に詳細な質問がありましたので、前回記事に補足をします。
過剰な投資対象を有するインデックスへの連動性を維持するために、インデックスファンドの運用手法の1つである「最適化法」という手法を採用する場合があります。この手法を採用することにより、運用期間中のコストがさらに増加する場合がありますので、簡単に触れておきます。

インデックスファンドの運用手法には「完全法」「準完全法」「層化抽出法」「最適化法」などの手法があります。下記参照。

完全法
インデックス構成銘柄すべて対して同インデックス構成比率を維持する運用を行う手法。
準完全法
上記の完全法の運用において、信用リスクの高いと判断した銘柄を除いて運用を行う手法。
層化抽出法
インデックス構成銘柄すべてに対して特定のグループに分類し、各グループから銘柄を選別してからポートフォリオを構築する手法。債券インデックスへの連動手法として一般的。
最適化法
計量モデルに基づいて、ポートフォリオとインデックスとの乖離が最小となるように銘柄と構成比率を決定する方法。インデックス構成銘柄数よりも少ない銘柄数でポートフォリオを構築することが可能。

最適化法を用いてインデックスファンドを運用すると、ファンドパフォーマンスとインデックスのパフォーマンスのかい離が頻繁に起きます。その、かい離が拡大した時にはそれを修正するために、銘柄入替などの売買コストが、他の手法に比べて、余計にかかることがあります。(なお、一般にインデックスへの連動手法は目論見書等に記載があります)

また、これらの管理オペレーションは、意外にもファンドマネジャーの「癖」がでることが多いので、特に過剰な分散化を図った金融商品については、コストとパフォーマンスを定期的にモニタリングしていくことが必要かもしれません。

質問④:真の世界株式インデックスはどのようなものだと考えるのか?

結論から。

筆者の考える真の世界株式インデックスとは「恣意的な要素が極力入らないインデックス」。そして「金融商品内で発生するコストを最小化できるように設計された現実的なインデックス」です。

事実、筆者が過去に在籍した会社にて開発済みで、概念としては実在するインデックスです。ただし、現在においても同社の著作物となっているため、概念だけを簡単にご説明したいと思います。

以下、個人投資家の皆さまには、あまり実践的な内容でありませんので、もしご興味があればコラムとしてお読みください。

インデックスの概念を理解するためのピース毎に説明させていただきます。

(ピース1:株式市場のグローバリゼーションを利用する)
株式市場のグローバル化により、近年各国のインデックスの相関性が高まっていることご存知だと思います。

それを利用して、例えば、米国株だけで世界株式時価総額加重インデックスに連動する指数の開発することはある程度は可能となります。イメージとしては、米国市場の個別株の国毎の海外売上高比率を算出し、世界株式時価総額インデックスの全体の各国の海外売上高比率に合わせることを前提とします。(例として「海外売上高比率」で説明していますが、実際にはグローバル化を測る要素を多数します)

そのうえで、海外売上高以外の世界株式時価総額加重インデックスの特性(ファクターリスク)を近似させる最適化を行い、米国株の銘柄選択および構成比率を決定します。このように開発されたインデックスは世界株式時価総額加重インデックスに近似した動きを再現できます(リターンのボラティリティに対しての説明力で8割程度)。

米国株だけで世界株式インデックスを再現できるメリットは、流動性が高い銘柄だけでインデックスを構築できるので、金融商品で再現した時には内部で発生する売買コストが安く抑えられることです。
もちろんデメリット等も多々ありますが、流れだけを簡単に説明しているため話を進めます。

一旦ここでは、技術的には、世界株式時価総額加重インデックスのパフォーマンスを再現するために、わざわざ世界各国に上場する全ての銘柄は不要という考え方もあるということをご認識いただければと思います。

(ピース2:時価総額インデックスの歪みを是正する)
前回記事では、各国の上場基準や規制産業なども影響し、世界株式時価総額加重インデックスには歪みが生じるという内容を説明しました。

インデックスの「概念上」の捉え方としては、上場企業に限定する必要がなく、世界経済の「縮図」を構築していくアプローチがあります。ファンダメンタルズインデックスに近い考えかもしれません。

まず、上場企業に限らず非上場企業等も含めた世界経済全体の「業種」「企業規模」などの構成要素を国別に計測します。そして、「ピース1」での考え方を利用して、売買コスト、保有コストが安い先進国の株式だけでインデックスを構築するのです。

要は、コストを安く抑えることができる主に先進国の銘柄群だけで、世界経済の「縮図」を再現するというイメージとなります。これが筆者の考える「真の世界株式インデックス」の概念です。

特筆すべきところは、インデックスは恣意的な要素を外せば外すほど、パフォーマンス(リスク調整後リターン)が改善する傾向にあるというところです。その解釈は、前回記事で説明した過度に投資対象を増加させたことで生じるマイナスファクターの悪影響が軽減されるため、と認識しています。

(なお、筆者が発表している当該インデックスの開発のアプローチは3つあります。上記はその内の1つを極めて簡素に説明したものです。)


今回は以上です。

書いているうちに長くなってしまいました。
次回以降は、もう少し分かりやすいテーマを、読みやすい分量にて書かせていただく予定です。

~この記事の著者~

香川 功行

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