2018-10-04

『平均分散アプローチを使ってアセットアロケーションを決定するのって意味あるの?』という質問をいただきました。

今回は、この疑問に回答します。

平均分散アプローチ(Mean-variance Approach)
資産の期待リターンとリスクによって投資家が投資行動を決定するという前提で、最適なアセットアロケーション(資産配分)を導出するモデルです
(運用モデルかは微妙ですが、当記事では分かりやすく「モデル」と表記することがあります)

この記事を書いている私は、内外の運用会社でファンドマネジャーやアナリストを経験し、その前にはファイナンス学でのアカデミックでの経験も長くありました。若干、日本国内の事情には疎いところもありますが、現時点において最先端の運用実務の情報も比較的入手できる方かなと自分では思っています。今回は、他の研究者やファンドマネジャーの方などからヒアリングした内容も含めて、いつもより客観的な情報を含めて解説していきます。

(結論から)
結論から言いますと「あまり意味はない」と考えます。
「あまり」というのは「マーケットの平常時に限って、ポートフォリオのリスクを「ある程度」想定できる」という観点で「若干、意味がある」という認識です。

年金基金では一般的なモデルとして活用されている「平均分散アプローチ」ですが、実際私のキャリアの中では、ほとんど目にしたことはありません。

運用会社のマーケティングの人間が、情報提供用の資料にグラフを使用したり、投資関連書籍の翻訳の監修の際に少し目にしたことがある程度です。資産運用の実務において「平均分散アプローチ」を見たりしたことは「皆無」です。

想像の域を出ませんが、日本の金融機関では「年金基金」「イボットソン」「BARRA」などでそのアプローチを利用することがあるとは思うのですが、古典的すぎる理論という印象です。

そのため、個人投資家の方が「平均分散アプローチを使ってアセットアロケーションを決定」というのは実践的ではないと思いますし、個人的には、お勧めはしません。

今回、当記事を書くにあたって各方面

・日本と米国の年金基金の委員
・米国の研究者
・米国と英国のファンドマネジャー

辺りの人間にヒアリングをしましましたが、こと「平均分散アプローチ」に関しては、全員が概ね同様の認識を持っていたので、安心をしながら以下まとめていきます。

できるだけかみ砕いで、簡潔に書いていきます。

年金基金が使っている理論が優れたモデルであるわけではない

年金基金で採用しているからと言って「平均分散アプローチ」が優れたモデルであるということはありません。年金基金では、程度の差はあるものの、内部で規律を重視した結果、「平均分散アプローチ」を所与のものとして運用しているにすぎません。「平均分散アプローチ」のモデルとしての事後的な検証や、自らが推計した「期待リターン」等の精度の評価も十分にはされていません。悪く言えば、このモデルを使って「やりっぱなし」の運用です。

年金基金が公表している資産毎の「期待リターン」「標準偏差」「相関」などのデータセットの予測精度は全く高くありません(特段、低いわけでもないですが)。当然ながら、結果として導出される「アセットアロケーション」が、事後的に有効フロンティアに近いアロケーションにはなりえません。この点は過去の学術研究によっても支持されている内容です。

また、今回は私が、某年金基金の時系列データセットを入手し、①期待リターン等の将来の予測精度、②構築されたアセットアロケーションが事後的に有効フロンティアの近辺に存在するか、の2点について様々な期間において検証しましたが、運を持ってなしえる成果程度以上の結果は得られませんでした。

日米で微妙なニュアンスが違うようですが、年金基金は、モデルの良し悪しに関係なく、合理的な決定をしているというスタンスをとるだけのために、現行の運用プロセスを採用しています。よく個人投資家で「某年金基金の運用は参考になる!」とおっしゃられる方がいますが、運用実務の経験者とは非常に認識の相違があるものだと感じています。

年金基金は、運用成果よりもプロセスにおける規律が重視される運用主体とも言えます(かと言って、リスクに見合ったリターンが得られないわけではありません)。ただ、最も自由度の高い個人投資家による資産運用において、年金基金の運用の「真似事」をしてしまっては、様々な機会損失が生じるため、正直「もったいない」と思うのが、本音ではあります。

「平均分散アプローチ」に従うべき根拠はない

「平均分散アプローチ」は、将来の「リターン」「標準偏差」「相関係数」を正確に予測ができるのであれば、結果、投資家は有効フロンティア上にあるポートフォリオを構築することが可能となるモデルです。

逆に言えば、将来の「期待リターン」「標準偏差」「相関係数」の予測精度が低ければ低いほど、有効フロンティアとかけ離れた(リスク調整後リターンが低い)ポートフォリオが構築されてしまうでしょう。

(3つの変数の推計精度は全ていい加減)
周知の事実だと思いますが、平均分散アプローチで使用される「期待リターン」の推計は、はっきり言って「いい加減」です。その推計に際し、過去の超長期の平均リターンを使ったとしても、ビルディングブロック方式により算出したとしても、さらにその他の手法で計測したとしても「期待リターン」の予測精度は全くあてにならないと言っていいでしょう。

最悪なことに、金融機関によっては、結果として導出されるはずの「アセットアロケーション」を「外国株式:50%、国内株式:40%…」などと予め「大よそ」想定して、そのアセットアロケーションになるよう近づけるように期待リターンを設定しているケースもあります。本末転倒ですが、事実です。いかに、いい加減であるかが分かるでしょう。

(※予測の精度は不要という専門的な最先端の主張もあるのですが、残念ながら、モデルによりケースバイケースであり、こと「平均分散アプローチ」に限っては当てはまりません。)

「標準偏差」「相関」に関しては、過去データを使って算出していることが大半ではないでしょうか。多少の工夫があったとしても、直近のデータに重み付け(指数の加重平均のように)をして算出した数値を使用する程度が関の山です。過去のマーケットに起きた事象の平均的な動きが、将来も起きるという前提でなければ、あまり意味のない数値といえるでしょう。

結論として「期待リターン」「標準偏差」「相関係数」のすべてが全く当てにならない数値を使用せざるを得ないなか、それら変数を無理に理論に押し込んでいるだけとなるので、モデルとしての評価以前の問題であるようにも感じます。

(「平均分散アプローチ」はリスク管理が必要な時こそ機能しない)
よく言われることですが、マーケットのクラッシュ時のように最もリスク管理が必要な瞬間には、「標準偏差」「相関係数」のどちらも想定以上に上昇します。ポートフォリオの分散効果は働かなくなり、過度なリスクにさらされてしまうことがよくあります。運用実務の考え方としては、マーケットのクラッシュ時のような期間こそ、リスクの評価を特に重点的に行う必要があります。ここからも、いかに「平均分散アプローチ」が実践的なものではないかが分かるのではないでしょうか。

もっとも「平均分散アプローチ」を複雑にして、より現実的なモデル(時系列モデル等)として採用すべきだと言っているわけではありません。複雑なモデルを採用したところで精度が上がるという類ものではなく、そもそもの考え方が、資産運用のアプローチとしては不向きと言えるのです。

平均分散アプローチで「期待すること」と「注意点」

(「期待できること」と「注意点」)
繰り返しになりますが「平均分散アプローチ」に期待できることは「マーケットが平常時にポートフォリオのリスクをある程度は想定できる」点に尽きると考えます。

もちろん、構築したポートフォリオから、リスクに見合ったリターンはある程度は得られるでしょう。しかし、それは特に「平均分散アプローチ」を使用していなくても得られる成果です。

次に注意点。
ポートフォリオのリスク管理で、例えば「2標準偏差(2σ)の損失発生が95%程度であろう」という想定しているのであれば「2標準偏差(2σ)以上の事象は、想像しているよりも遥かに起こりやすい」ということを自覚しておくべきだと考えます。

「平均分散アプローチ」で想定される「リスク」は「年率標準偏差」で定義され、ポートフォリオのリターン(収益率)は正規分布(i.i.d)に従うという前提を置いているケースがほとんどでしょう。しかし、実際のリターン分布の形状は正規分布には従いません。分布は「尖っていたり」「歪んでいたり」「外れ値(いわゆる「テールリスク」)」があるものです。特に分布の左側のテールリスク(マーケットのクラッシュ時などのリスク)をより意識して、リスクをコントロールしていくことが実践的なのです。

個人投資家は、あまり難しく考える必要はありません。リーマンショック時などのマーケットが荒れた時期を振り返り、それらの時期の「標準偏差」「相関」などを想定し、ご自身のポートフォリオの最大損失率をイメージするくらいの準備でも良いのではないでしょうか。

(最善のスタンスを概念的に‥)
ここであえて最善のスタンスを言葉で表すと、

「投資家は、洞察力を養いながら、様々な視点からマーケットの動きを認識していくという準備が必要。将来の出来事の確率を表す確率分布を可能な限り想定し、特にその分布の左側にある「テールリスク」に見合う期待リターンを推察することが何よりも重要」

と私は考えます。
(米国某運用会社の運用哲学を「一部」ではありますが参考にさせていただきました。考え方が同じなので。なお、参考にしたことは許諾をとっています)

言うは易しです。
言葉にすると簡単ですが、この文章にはいくつもの意味を込めています。

理解していくためには「リターン分布の形状に関する実証分析の把握」「テールリスクの評価方法」「リターンの自己相関に関する知識」など様々なパーツ(見解・認識)が必要になると思います。各々のパーツについては、今後、少しずつ記事にしていければと考えています。

今回は以上です。

~この記事の著者~

香川 功行

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