2018-10-22

インデックス投資を推奨する書籍の著者や、運用会社の役員は「インデックス運用」を選択せず、「アクティブ運用」あるいは「エンハンストインデックス運用」を選好されているケースが多いように感じます。

大御所研究者・実務家らが採用する投資スキームが明らかに

一部の著名な研究者・実務経験者の間で流行っている投資スキームがあります。それは、パナマ法人(ということは、検索すれば個人名も)を通じて「エンハンストインデックス運用」を行うタックヘイブン国の投資法人への投資です。

そして、その投資法人の運用手法は、一般投資家が保有する世界株式を投資対象とする、いわゆる一般的なインデックスファンドの内部から認識できるコストデータが解析された上で、メンテナンスされていることはあまり知られていない事実です。

『「市場効率的」「まぐれ」「偶然」「インデックス投資が最善」・・・など』というパワーフレーズを繰り返し一般投資家に唱えている一方で、その張本人は「アクティブ運用」や「エンハンストインデックス運用」により個人資産を優雅に運用。これは、日本国内では、あまり公にならない究極の「ポジショントーク」の1つかもしれません。さらに、一般投資家が保有する世界株式へのインデックスファンドが、「エンハンストインデックス運用」の検証材料とされてしまっていることも否めません。

<一歩引いてインデックス投資を見ていく>
日米問わず「インデックス投資」には「熱狂的なファン」がいますが、あまり熱しすぎず、一歩引いて投資法を見つめていって欲しいというのが個人的な意見です。

「コストが高い金融商品には手をだすな」
「窓口営業に騙されるな」
「投信の毎月分配は非合理的だ」

という文句はよく聞かれますが、「インデックス業界」にも同様の「騙し(のようなもの)」があるからです。

もし『インデックス投資に限ってそのような「騙し」などは・・・』と考えていたとしたら、多少なりとも熱を帯びていて「冷静さ」が必要なのかもしれません。

(日本でも同じことが言えるかは分かりませんが)インデックス投資関連書籍の執筆に際して、アカデミックの研究者である筆者は、その投資法を推奨することを「期待されて」依頼されるものです。極端なケースでは、仕事として依頼されたことを理由に、何十年も自身の考えと異なる主張している方もいます(それは「お金」のためです)。

また、読者受けの良い(読者が読みたがるであろう)内容やデータを前面に押し出すようなバイアスも当然存在します。これは、如何に「バイブル」と言われるような書籍であっても同様なので、読者は意識すべき点だと思います。

私は「インデックス投資」を否定しているわけではありません。運用時の低いコスト程度は有効だとは、下記の記事でも説明させていただいた通りです。

(参考記事:インデックス投資の本質に迫る第一歩【ファンドマネジャーの本音】

ただ、有名投資本の著者や大御所の研究者が「インデックス投資」を個人投資家には推奨する一方で、自身では(絶対に)実践しない投資法とされるケースがあることも事実です(少なくとも、私の知る限りでは、いわゆる「低コストでのインデックスファンドを使った国際分散投資」を実践している方はほぼいない)。

加えて、個人投資家に伝わる投資情報には商業的な影響によるバイアスが介在していることもまた事実。個人投資家としてはどうすることもない事実ではありますが、そういったこともしっかりと認識して、客観的に投資法を捉えながら、将来の変化にも対応できる柔軟さを養っておくと良い、というのが私の意見です。

さて、前置きが長くなりましたが、今回は、上記を踏まえての「エンハンストインデックス運用」で活用される「インデックス投資」の「コストの考え方」について説明していきたいと思います。

本記事の内容

・インデックス投資における「広義」のコストとは
・一般投資家が保有するインデックスファンドのデータが検証材料に使われている
・「意外にも」単なるパフォーマンスの比較が有益です


この記事を書いている私は、海外でも運用実務やアカデミックでの研究の経験を有している者です。投資関連書籍の著者とも協業関係にあり、米国を中心に語られることが多い運用業界の実態を、ネイティブの日本語でお伝えすることができる実務経験者何名かのうちの1人であると、と自分では思っています。

インデックス投資における「広義」のコストとは

インデックス投資には限りませんが、一般に投資信託を通じて生じるコストは以下の3つ。

<1>信託報酬
ファンドの運用管理費用

<2>実質コスト(運用報告書等で判明するのもの)
売買コスト、保管費コスト等

<3>実質コスト(運用報告書等で判明しないもの、SNS上では「隠れコスト」と言われるもの)
例えば、日本のファンドの運用報告書では、バスケット取引などによる取引額全体に発生するコストは、売買手数料として表示されません。この類のコストは、ファンドの設定国、トレード内容によって様々です。全て纏めるのは少々現実的ではありませんが、もしご要望が強かったら記事で羅列してみます。

既にご存知だと思いますので、それぞれ説明は省きます。

(参考記事:ファンドマネジャーが教えるインデックスファンドの選定基準

実質コストがどれくらい発生しているか確認したくなる気持ちもよくわかります。
しかし、上記の記事でも説明しましたが、基本的には<1><2><3>トータルのコストをファンドと対象連動インデックスのパフォーマンスの差異をもって、概算と考えるのが最も簡単です。また、記事にもある通り、TE(トラッキングエラー)の確認も基本的には不要だと考えます。

<1><2><3>は、個人投資家の方が、比較的よく気にされるコストではないでしょうか。

他方、以下<4><5>のコストは、一部のインデックス運用の専門家がプライベートの運用で回避しているコストです。もちろん、冒頭に紹介した「エンハンストインデックス運用」を行うタックヘイブン国の投資法人では、これらのコストを徹底的に回避する運用を行っています。

<4>インデックスの構造要因に基づくコスト
インデックスの開発段階で想定される、将来に渡り発生するコスト
を指します。

最も直観的に理解しやすい例から。
例えば、予め銘柄数を決めているインデックスと、特定市場の上場企業を網羅する銘柄群で構成されるインデックス、の2指数間で将来の発生する<2><3>の売買コストが違いますよね。

まず1つには、インデックスの設計概要において、現実的なインデックス運用を行った際に生じる将来のコストの想定値です。特に、現在よりも将来増加が見込まれるコスト要因は注視されます。時価総額加重インデックスを前提にすれば、浮動株の定義やその変更などもそのコスト要因に含まれます。

もう1つには、売買コストにではなく、直接パフォーマンスを低下させるインデックスの構造要因です。例えば、よく言われることですが、時価総額加重インデックスへの投資は、他の市場参加者にポートフォリオを開示していることと同じです。いわゆる「コバンザメ投資法」等の先回り取引に利用されるなどパフォーマンスが劣化する構造が内在しています。昨今、時価総額加重での投資ウエイトを採用していること自体がリスクファクター(コスト要因)として捉える向きがあります。

これらの構造要因は、パフォーマンスに対し、プラスにもマイナスにも寄与すると思われるかもしれません。
しかし、厳密に分析していくと、場合によっては400ヶ月のうち390ヶ月(97%以上)もパフォーマンス低下に作用する「確実」なコストがいくつも存在します。現在では、多方面でインデックスの構造の研究が行われ、インデックスの開発段階で、将来どのような構造がコストになってしまうかということが、以前よりも遥かに明確となっています。

<5>市場等の構造要因に基づくコスト
市場等の制度・慣例等の影響に起因するパフォーマンス劣化要因を指します。

例えば、J-REITでは、ビジネスから生まれる利益の90%以上を分配することで法人税が免除される税制が適用されています。分配を受領した投資家が、納税することが想定されているものですが、設計上、無分配の投資信託(日本籍)がJ-REITを保有している場合は、利益を確定するまで、この税金は繰り延べられます。つまり、投資対象のビジネスから生じるキャッシュフローとは関係なく、税制・制度的要因により有利・不利が発生することがあります。

直接、間接問わず日本上場企業に投資をするケースと、J-REITを保有する無分配の投資信託に投資をするケースを比較すると、前者の方が、投資対象のビジネスに対しての法人税分(の株価反応相当程度)運用効率が悪くなっているという捉え方もできるということです(実際には説明しているほどは単純ではありません。また、各ビジネスに対する期待想定や、投資家の不確実性に対する評価などで条件は様々変わります)。

世界各国の税制・規制、金融商品の制度・仕組み等を網羅的に見渡せば、投資対象のビジネスから投資家が直接的に受ける影響度が如何に多様化しているかが分かります。

そして「①世界各国の税制・規制・慣習」「②金融商品の仕組み」「③金融商品の設計国→投資対象国・投資対象」のそれぞれのパターンで、元々設定している(「していれば」ですが)期待リターンを調整していくべきという考え方に発展します。上記の例では、日本株を投資対象とする投資信託の期待リターン:0%としたときに、J-REITを投資対象とする投資信託は+0.8%というような相対値で考えるイメージです。

一般投資家が保有するファンドデータが検証材料

特に<4>と<5>のコストは、世界株式を投資対象とするインデックスファンドの内部データ(税率、売買コスト、個別銘柄のパフォーマンス等)を分析することで把握されています。

ファンドの内部データを使用した分析は論文などで公にならない性質の情報です。私は、何となく、認識している関係者だけが保持して上手く利用できている情報だと感じています。その情報を、繰り返しになりますが、先に述べました専門家が利用しているタックスヘイブン国の投資法人では、<1>~<5>までのコストを徹底的に回避するような運用手法を採用しているのです。

一部の研究者・実務者は、広義のコストの分析結果やそれに伴う市場の歪みの認識が、単純なコストでなく上記で示した広義のコストが肌感覚で分かっているため、単なる国際分散投資は実践しない傾向があるように思います。

「意外にも」単なるパフォーマンスの比較が有益です

<個人投資家には手が出せない領域>
しかし、残念なことに、個人投資家が<4>や<5>のような広義のコストを回避したいと考えたとしても、簡単にできるものではありません。ファンド内部のコストを分析する術もありませんし、そもそも適当な金融商品もないからです。

しかし、個人投資家として最低限できることがあります。
それは単純に様々な指数、あるいはインデックスファンドのパフォーマンスを比較することです。

そう言うと「過去のパフォーマンスは将来を予想するものではない!」と反発してしまう投資家の方もいるかもしれません。
確かに「過去の実績は将来を予想するものではない」は正しい認識です。しかし、この文句を不要なまでに繰り返す投資家が多いように感じています。

<単なるパフォーマンスの比較を軽視してはいけない>
資産運用の分析の入り口はパフォーマンスの比較です。私が経験した、インデックスの開発・研究、インデックスファンドの運用、運用モデルの開発、ヘッジファンドのアルゴリズム運用の全てで、パフォーマンスの比較を行わないことはありえませんでした。むしろ、どんなに複雑な解析ができる時代になっても、最も基本的で重要なデータという認識です。

<パフォーマンスの差異の広義のコストで10~35%程度説明できる>
事実、当記事のコスト分析では、各インデックス運用のパフォーマンスの差異の10~35%程度は<1>~<5>のコスト要因で説明できることが分かっています。

つまり、単純にパフォーマンスを比較し、チャートを見て安定的に優位性がありそうなパフォーマンスの指数を選ぶだけでも、「10~35%程度」は広義のコストを回避した「エンハンストインデックス運用」に近づけることができるのです。

(※ 厳密には、同じ市場におけるバリュー指数とグロース指数の比較のように、直接的に特性同士を比較するケースでは比率は変わります。また、残りの「65%~90%程度」の要因は、投資対象の期待リターンに差異を設けないことを想定していれば、期待値ゼロと評価しても大よそ問題がありません。)

単純なパフォーマンス比較も「馬鹿にできない」評価軸の1つです。
パフォーマンスの差異が安定的に生じている状況においては、構造的な要因が含まれると考える方が自然だからです。専門家でもパフォーマンスの差異の説明を分析もせずに「まぐれ」「偶然」と評価することが多々ありますが、前述の通り「10~35%程度」は明確に原因が特定できる構造要因によるものです。

<構造要因コストだけで「世界株vs米国株」を評価できませんが>
日本では「世界株インデックス」と「米国株インデックス」のパフォーマンスを比較されることが多いように思います。単純に過去のパフォーマンスに優位性がみられた「米国株インデックス」の方が、「世界株インデックス」よりも、<1>~<5>のコストは回避できている傾向にあるのは事実です。

ちなみに、前述した一部の専門家が実践する「エンハンストインデックス運用」に特性は「世界株インデックス」よりも「米国株インデックス」の方が近かったりします。単に結果として特性が近いというだけですので、もちろん、やみくもに「世界株インデックス」より「米国株インデックス」の方が良い選択肢だと言うつもりもありませんが。

今回は以上です。

~この記事の著者~

香川 功行

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