2018-12-10

インデックス投資が「ノーベル賞(ウィリアムシャープ氏のCAPM)理論で証明された投資法」という説明を何度かみたことがあります。これが誤解釈であるかは(「誤解釈」という)言葉の定義にもよるところですが、少なくとも拡過大な解釈であることは間違いありません。

CAPM理論の生みの親であるウィリアムシャープ氏ご本人も、過去に「インデックス投資とCAPMの関連性を否定」しています。これ以上の根拠はないと個人的には思うところでもあります。もちろん、私自身もシャープ氏に過去直接その旨を確認した経緯もあります。

インデックス投資とノーベル賞(CAPM)理論

理論の生みの親であるシャープがCAPMとインデックス投資の関連性を否定しているにもかかわらず、日本ではネット記事を中心に

(1)インデックス投資はノーベル賞で証明された投資法だ
(2)CAPM理論に基づいて時価総額加重インデックスに投資するべきだ
(3)インデックス投資は経済学的に正しい投資法だ

などのように説明されることあります。
専門の金融機関が作成した資料にすら、そのようにな記載を見かけることさえあります。

CAPM理論の内容をあえて簡単に書くのであれば「完全に効率的なマーケットにおいて、合理的な投資家が選択するポートフォリオは、投資可能な全ての証券をその時価総額加重比率で保有するポートフォリオ(マーケットポートフォリオ)となる」というものです。(本質的には微妙に違いますが細かいことは割愛して話を進めさせていただきます)

CAPM理論の投資可能な証券は、文字通り世界中に存在する投資可能な証券の全てです。伝統的資産である「株式」や「債券」だけでなく、非上場企業の株式についても何らかの保有する努力をして組み入れる必要があるかもしれません。また、場合によっては、証券化されたコモディティ、ETFなども含まれるでしょう。決して、現存するインデックスファンドの投資対象と合致するものではありません。

加えて、CAPM理論では、理論の前提が現実のマーケットに適合すると証明したわけでもありませんし、投資可能な証券の範囲を現存するインデックスファンドの投資対象で近似できるとも説明していません。当たり前ですが、理論上で存在するマーケットポートフォリオを保有すれば、必ず儲かるとも言っているわけではありません。

あえて淡白な言い方をすれば、CAPM理論は一定の前提のもとでの論理的な考え方を示したものです。もちろん、その考え方は、後に様々な理論構築や実証分析に寄与し、当時として非常に画期的な理論であったことは疑いようはありません。しかし、実践的な資産運用において何かを提起をしたものでないのです。

過大解釈までしてインデックス投資を神格化する必要はない

ところで、私は、単に上記が過大解釈だと専門家の立場から訴えたいわけではありません。これらの解釈よりも最も重要なこと。それは、巷ではインデックス投資を過度に神格化していることにケースがあることに他なりません。

日本のSNSでは特にインデックス投資家が群集化し(他方、ブロガーであれば長期でブログ運営している者の発言権が強くなり、その発言が不必要なまでに増幅していることは別の弊害であるように感じる)、不要なまでにアクティブ運用を否定したりしています。場合によっては、同じインデックス投資家同士でも、ポートフォリオのリスクの取り方などの違いがあれば、他者に攻撃的な発言をしている投資家も一部には見かけるほどです。

別の記事でも書きましたが数ある投資法の中でも特にインデックス投資は、表現が適切ではないかもしれませんが、「神格化」しやすく「宗教的」に受け入れてしまう投資家が多い傾向にあると考えます。それは、過去長期にわたりインデックス投資のマーケティング活動では米国のアカデミック側の協力が多分にあり、投資家には一見格調が高い投資法であるかのように伝わった影響があるのでしょう。しかし、当記事であげた「ノーベル賞理論の裏付けがある」や「経済学的に正しい」などの表現に関しては、前述の通り実態から逸脱した表現といえるでしょう。

自分が実践する投資法のメリットは、的確に、そして冷静に認識するべきです。過小でも過大でもなく「的確」に評価しなければなりません。仮にメリットを不要に飾り立てて、投資法に心酔してしまうことがあると、資産運用に対する考え方の柔軟性が失われてしまい、資産運用の適正な継続に悪影響になりかねません。あくまで冷静にそして客観的にというスタンスが良いのです。

投資手法の評価は、インデックス投資であっても、時流と共に少しづつ変化していくものです。インデックス運用で有名なバンガード社の過去数十年のレポート等を時系列で追っても、10年以上の単位では僅かながらも見解が変わっています。
これは経済が生き物のように絶えず変化しており、そして投資家は昨日よりも今日において、より多くの正しい情報を入手することができるからです。何も資産運用の分野に限ったことではありません。

変化の例をあげていきます。1つには、よく耳にする内容だと思いますが、今後数十年間において株式の期待リターンが低下することを予想する運用会社もあります。そのケースにおいて、期待リターン以外の要素、ボラティリティ、相関等の市場特性が過去とあまり変わらない状況であれば、投資家のリスク許容度によっては長期インデックス投資の投資意義がなくなる可能性があります。

先進国で上場企業から非上場企業に鞍替えが加速してしまう可能性もゼロではありません(そういう明確な見通しがあるわけではありません)。そうなった場合は、時価総額加重インデックスの対象国の構成に歪みが生じることは言うまでもありません。また、市場におけるパッシブ運用資産額の占有度が、このまま継続して上昇していけば、当然、市場の特性に何らかの構造的変化が生じてくるのは間違いありません。

現時点において、1つ1つ想定される将来の変化に対しどのような考え方の変化を必要とするのか、これを提示することは困難です。しかし、一見普遍的そうなインデックス投資でも、その捉え方、見解、評価等は時代と共に少しづつ変えていく必要があり、必要以上に投資法に心酔してしまうことは将来の危険要素になりかねないのです。

インデックス投資の冷静な評価

インデックス投資のメリットは、他の投資手法と比べて、コストが低い傾向にあるという点に尽きます。コストというのは、投資家が負担する信託報酬や、金融商品内で生じる様々な売買コスト、保管コスト等を含めたトータルでの費用です。

ただし、他の投資法と比べて、それらのコスト分以上に優位性があるということは、ほとんど無いと言っていいでしょう。(もちろん投資信託などの金融商品を介してインデックス投資を実践することには別のメリットもありますが、商品スキームに関連するメリットはインデックス投資に限ることではないので省略)

時価総額加重インデックスでの「投資比率」にパフォーマンスの有効性があるわけでもありませんし、ましてや、インデックスの「構成銘柄」という銘柄選択効果においても有効性はありません。

一般的な先進国の個人投資家向けに販売される伝統的な投資信託のスキームで運用されるアクティブファンドがインデックスに対して勝率が悪いとされる要因は、上記のコストが総じて高くなることに起因したものがほとんどでです。その他の運用上の銘柄選択や投資比率の要因については、インデックスに対しての勝ち負けは50%程度で生じているにすぎません。

極端な話、投資家が金融商品を介さずに、個人で投資対象とする市場から「適当」に複数銘柄を選択(モンキーポートフォリオ)し、バイ&ホールドしたとしても、リスク調整後リターンから見たパフォーマンスの優位性はほとんどインデックス投資と変わりません。(厳密には、保有銘柄から落ちた配当にかかる税金等のマイナス寄与を、金融商品を使用しないことによる信託報酬等の分のプラス寄与が上回るかなどを考える必要があるかもしれません)

例えば、上述のモンキポートフォリオに小型銘柄に偏りがあれば、インデックスの構成と異なったことに起因するパフォーマンスの差が生じるでしょう。しかし、そのパフォーマンスの差は、プラスになるか、マイナスになるか、長期的には概ね50%程度の確率となるでしょう。結果、小型銘柄に偏ったことでリスクが上昇したことを差し引いて、偶然の域を出ない程度の結果におさまることがほとんどです。

まとめ

インデックス投資がノーベル賞理論により証明された合理的な投資手法であるという認識は過大解釈によるものです。それは、理論の生みの親であるウィリアムシャープ氏ご本人の言葉でもあり疑いようのない事実です。仮にCAPM理論におけるマーケットポートフォリオが、近似的概念としてインデックス投資を評価したとしても、前述の通り理論の前提や結論が、現実に資産運用に適応できるかは相当に疑問があるところです。

あくまでも、インデックス投資のメリットは、投資家が直接あるいは間接的に負担するコストが軽減できることに尽きます。コスト以上でも以下でもなく、それ以外の要因での有効性はほとんど存在しません。もちろん、時価総額加重での「投資比率」や、インデックスの「構成銘柄」にもパフォーマンスの有効性があるわけではありません。

自分が実戦する投資法は、過不足なく的確に評価すべきです。しかし、特にインデックス投資については、不要なまでに高く評価し、心酔してしまい、冷静さを欠いている投資家が一部にいるように感じます。仮にそうなってしまうと、将来に生じるであろう変化に対し、柔軟な対応ができなくなることが懸念されます。

~この記事の著者~

香川 功行

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